一月の歌

2020年一月の歌



初釜の茶道具清め納めゆく母の名残り香留むる箱に


初釜は1月の10日に行いました。床には梅の軸を掛け、結 び柳と紅白椿を生けました。全て母の初釜を擬えていますけれど、母のように大勢の方を招いての正午の茶事を開くなどはとても及びもつきません。母は一週間 かけて本懐石の準備をしてその日を迎えたのでした。大変そうな様子を目にしたことはありません。むしろ楽し気にさえ見えました。今にして分かる母のすごさ です。私はといえば、手作り弁当でのおもてなしが精いっぱい、それでもお正月気分は楽しめました。







2019年一月の歌


陽ざし増し白梅一輪こぼれたりやさしき思い胸を過ぎりぬ


  大忙しの末に迎えた新年はあっという間に過ぎて、もう月末、庭に少しずつ彩が広がり始めています。小さな蕾だった白梅が陽射しの明るさに誘われるように綻 び、早春の気配が一層増しました。過ぎる季節を懐かしむ思いと、来る季節を待ち焦がれる思いとがない交ぜの日々、今年が穏やかで、悲しむことや辛い思いを 抱く人々の少ないことを天に祈る思い切です。平成の世もあと数か月、次の時代の幸と平穏を願いながら、日々を生き生きと過ごして行きたいと思っています。





2018年一月の歌


母とありし茶室の日々を礎に吾一人発つ菊寿庵へと


2018 年1月7日、私の茶室「菊寿庵」の茶室開きをしました。母を見習って、結び柳を飾り、鏡餅をお供えして、家内安全、家族の安穏を祈りました。母の茶室知川 庵を去ってから一月を掛けて、どうにか茶室の態をなすまでに漕ぎつけました。自分独りで行う茶室の設えの成すことの多さに、今更ながら母の凄さを実感し、 自分の至らなさを思い知りました。母はかけがえのない手本です。これからの日々を大切に、有意義にと改めて思う茶室開きでした。




2017年一月の歌

冬枯れの庭に小鳥の集いくる
ぬくもり点す千両の赤に



年明けからずーっと上天気が続いています。
北は大雪で、みなさん難儀していらっしゃるというのに、申し訳ないような思いがします。

昨年は母の、今年は姑と、2年続いての淋しいお正月です。
直ぐ身近で、私を支え続けてくれた存在が、急に彼岸の彼方に去ってしまって、途方に暮れながら過ごす日々が続きました。でも静かなお正月の日々の中で、慕 わしい人達の思い出とゆっくり、じっくり向き合う時が持てたことで、何か少し心にゆとりのようなものが生じたような気がしています。

のんびりしていると、鳥の声がよく聞こえます。気候の変化や、木々の様子もじっくりと観察します。集まってくる小鳥たちが何に惹かれているのかも見えてきます。ゆとりの大切さを母達から教えられた思いです。また元気で過ごして行けそうな自信が湧いて来ています。





一月の歌


2013年1月


 
冬空に白く清やけきばら咲けり夢でまみえし母に相似て



 

3ヶ日は晴天に恵まれて、碧く澄んだ空が何処までも広がっています。

 例年は寒中休眠する白薔薇が、今冬は蕾を持ち、母の告別式に合せるように花開きました。この一番花に母の 守りを託して、旅立つ母の枕辺に置きました。

 この花は二番花、年明けと共に花開き、母の月命日に満開となりました。
母を彷彿とさせる豊かさと清々しさを湛えています。
2日に母の霊前に供えてきました。

 何かにつけて、母の寛やかさ、温かさが思い起こされ、懐かしさに胸締め付けられる思いがしています。
納骨の日も迫りました。心強く生きて、母に恩返しをしなければと思う日々です。






 

2012年1月

ひとひらの朱き葉留むる山ぼうし初日を受けて時を寿ぐ


 
 
 
予報によれば「東京地方は元旦は曇り、初日の出は望み薄」とのことでしたけれど、7時前予報に反して、太陽は雲を分けてその顔を出してくれたのでした。
遠い家並みの屋根の上が輝きはじめたときはうれしくなりました。
 8時ごろお節の飾りにと千両、万両を取りに出た庭は風も無く、いたって穏やかです。太い幹から延びた小枝に辛うじて留まる照り葉が、昇り始めた陽ざしに応えて彩を増していました。
空はやや淡く、雲のなごりを留めてはいましたけれど。

 
 
 



 
 

2011年1月

君ありし卯年の春をなぞらえる大内膳にひれ酒そえて


 いくつになってもお正月の朝は心が弾みます。
美しい日の出を見れば、今年の日々の良いことの兆しに感じられ、澄んだ空気に心が改まります。良い一年でありますようにと念じながら、祝い膳を囲みました。
 東京で暮らす日々ですけれど、夫の郷里宇部のお正月の匂いを忘れることはありません。旬のふぐ刺し、てっちりは、昨今東京でも難なく手に入りますけれど、鰤の刺身とふぐの煮凝り、ひれ酒は手に入っても味が遠く及びません。
 姑が送ってくれるふぐヒレを、教えられたように、カリカリになるまで気長に炙ります。ここに熱燗のお酒を注ぎ込んで蓋をし、しばし。ヒレ酒のおいしさは私には分かりませんが、お酒好きの人たちの表情を見れば、それが大特別のものらしいのが伝わります。
 ふぐはふく(福)に通じるからと西ではおめでたい時によく振舞われます。そして瀬戸内では決して「ふぐ」とは言わず「ふく」と呼びます。ふくにあやかって、今年も穏やかな日々がもたらされるよう祈る元旦です。

 

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